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ジョージ.デニスン著 武田尚子訳『学校ってなんだ』サイマル出版会. 1977年 本書は、『豊かな社会』の進展に伴う教育人口の爆発的増大、それに対応しきれない教育制度、そこから生まれた教育の質の危機と、それへの反省という、六〇年代に始まるアメリカの教育改革運動のいわば先駆をなすものである。ベトナム戦争に青年は反抗し、物資の豊かさが冷戦や核兵器の暗雲を追い払う役にはたたず、テクノロジーのもたらす非人間化や環境汚染が、アメリカの理想主義に強い疑いの目をむけさせるようになっていた。多くの学校は教育という名の非人間的な工場に変わり、都市や田舎の貧しい子供たちは、公立学校から脱落していた。 著者デニスンはこうした社会状況を背景に、ニューヨークに児童数二三名の私立のミニスクールを作る。黒人とプエルトリコ人と白人が雑居し、殺人や強奪事件が日常茶飯事で、大半の住民は生活保護家庭という都市の貧困地区のただなかに登場したこの学校の生徒の多くは、地元の学校をたらいまわしにされた、札付きの乱暴者や落第生だった。彼らは学習不能なまでに傷つき、自信を喪失し、すでに自分を社会の異端者、もしくは落伍者と見ていた。しかしいったん大家族に似た小さな学校で教師の個人的な関心と表現の自由を与えられ、無名性の不安から解放された子供たちが、どんなに目覚しい進歩を遂げることか...フランス、ドイツ、スペイン、ポルトガルなどでも訳出された本書は、それから三〇年、依然として困難な教育環境に悩むアメリカでも、共通した多くの問題を抱える日本でも、今読んでなお新しい示唆に満ちている。